木の香りが心地いい理由
2021/07/08 | お家のこと 自然素材のこと TOPICS皆さんは、入った瞬間に気づく家の匂いが気になったことはありますか?
友人の家を訪れた際に、その家特有のにおいを感じた経験は誰でもあるのではないでしょうか。
でも自宅の匂いはあまりに気になりませんよね。それは、嗅ぎ慣れた匂いだからだそうです。
今回のコラムは、気づきにくいはずの自宅の匂いに悩んだ結果、無垢材に慣れている者でも驚いた「木の香りが持つ力」をお伝えしたいと思います。
突然ですが、いなほ工務店では猫を飼っているスタッフがとても多く、私もその一人です。
我が家の猫は少し困った癖があり、新聞以外で用が足せません。
道路の隅で小さく丸まっていたところを保護した直後、新聞で用を足させたのが原因だと思いますが・・・、
新聞紙ではやはり臭いが強く、部屋中にアンモニア臭が充満するのが気がかりでした。
でも、猫に芳香剤などは厳禁(体に害を及ぼすことがある)なため、服などに臭いが染みついていないか悩んでいる話をしたところ、社長から消臭剤として「青森ヒバ」の端材をもらいました。
4つ貰ったので部屋のいたるところに濡らして置いたのですが、小さい端材にも関わらず驚くほどの効果を発揮してくれたのです。
木の香りとは無縁の家だったため、余計に木の香りを際立たせたのかもしれませんが、木の持つ力を改めて見直した出来事でした。
木の香りが心地いいわけ
身も心もリフレッシュできる森林浴。
森に入ると夏の暑い時期でも涼しく感じたり、すがすがしい爽やかさを感じたことがある方も多いのではないでしょうか。
この「感じた」という漠然とした言葉。
実は、森の中の木、一本一本から放出されているフィトンチッドという成分が作用していることが研究で明らかになっており、「感じる」理由はすでに解明されています。
フィトンチッドという聞きなれない成分名ですが、フィトンには、植物が。チッドには、殺すという意味があります。
高等植物が傷ついた際に傷口を菌や細菌から守るために周囲の生物を殺す物質を出すことに由来しています。
日本語に訳すととても怖く感じる言葉ですが、私たち人間にとっては多くの恩恵がある物質であり、木の香りが心地いい理由は全てこのフィトンチッドの働きによるものです。
木の香りにリラックス効果がある理由
フィトンチッドが人体に与えるよい影響は世界中で研究が進められており、フィトンチッドに含まれる揮発性物質が部分酸化するときに出てくるマイナスイオン物質の作用による効果だといわれています。
現在認められている効果は下記の通りで、
・リラクゼーション(精神の安定)
・大脳皮質の活性化(脳内のα波の発生を促し、精神を安定させる)
・高血圧の抑制
・神経系の緩和(自律神経の安定)
・皮膚病・呼吸器系疾患の改善
・アレルギー性疾患の予防、回復ほか
※図は、森林・林業学習館からお借りしました。
「フィトンチッド」はヒトの副交感神経を刺激して精神を安定させ、解放感、疲労回復、ストレスの解消などをもたらすと言われています。
そのため、ドイツでは森林浴は医療行為として認められており、がん細胞を攻撃して排除する免疫細胞のひとつであるNK(ナチュラルキラー)細胞を活性化させる働きもあると言われています。
森に度々行くのはなかなか難しいですが、無垢の木の香りにもフィトンチッドは含まれています。
疲れている時やリラックスしたい時などに、無垢の端材を枕元に置いておけばその効果が期待できますよ。
木の香りには消臭効果もある
木にはいい香りだけでなく、悪臭そのものを消す働きがあることをご存じでしょうか。
本来ならば、家の中で飼っている動物の比ではないほど、動物がいるはずの森。
排泄物が片付けられることは無く、堆積しているはずなのに空気が清々しいと感じるのには理由があります。
それは、フィトンチッドには消臭効果や脱臭効果があり、空気を浄化する力があるからなんです。
特に、トドマツやヒバの香り成分には他の木と比べても更に高い消臭率があることが分かっています。
アンモニアの消臭だけでなく、ホルムアルデヒドの吸着や、二酸化炭素ガスの吸着にも適しており、トドマツの枝葉から生まれたユニークな〝空気浄化剤〞も発売されているほどです。
我が家の悪臭の原因であった猫のトイレと、青森ヒバ。
まさに最高の組み合わせだったことがこのことからも分かります。
家を建てようと考えた時、犬や猫を飼う事を予定されている場合は、手触りや色味の好きと共に、消臭の観点から選んでみるのもいいかもしれませんね。
香りで除菌・抗菌・防虫ってどういうこと?
フィトンチッドの直訳は、「植物が殺す」だと先ほどお伝えいたしましたが、まさに除菌抗菌・防虫の働きは、菌や細菌、虫から自身を守るために生まれた成分「フィトンチッド」が存在する理由そのものなのです。
その効果は日本でも古くから利用されており、おにぎりを木の皮で包んだり、木のお弁当箱がよく使われていたのも、除菌・抗菌、防虫効果を狙ってのことです。
現在も多くのお寿司屋さんで使用されている寿司下駄やすし桶が木製で、ネタを入れておくガラスケースの中にネタと共に葉が入れられているのも全て、この除菌・抗菌効果からだそうです。
木の種類によっても効果に違いがあり、特に効果があるとされているのが、下記です。
抗菌 | ヒノキ、ヒバ、サワラ、ネズコ、タイヒ、ユ-カリ |
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防蟻 | ヒノキ、ヒバ、サワラ、コウヤマキ、イヌマキ、センダン |
防ダニ | ヒノキ、ヒバ、サワラ、スギ、アカマツ、ベイヒバ、ベイスギ |
防虫 | クス、センダン、ユ-カリ |
抗菌・防蟻・防ダニに効果がある檜材ですが、ヒノキの木屑の中ではダニが死滅することが実験により確かめられ、カーペットの下に置く防ダニシートにはヒノキ精油が使われているものもあるほど、その効果が広く知られています。
絨毯敷きの部屋を檜のフローリングにリフォームしたところ、ダニが驚くほど減ったという実験結果もあるので、アトピーなどのアレルギーがある場合や、ペットを飼う場合は檜のフローリングが良いかもしれませんね。
※図は、森林・林業学習館からお借りしました。
木が香るわけ
木の心地良い香りは、材内の精油成分によるものです。
今までのフィトンチッドの話だったのに、精油成分?と思われるかもしれませんが、この製油成分こそがフィトンチッドそのものです。
杉と檜の香りが違うように、樹種によって香りが違うのは、1つの樹種にそれぞれ十種類以上含まれているためです。
樹種によって種類や含有量が異なるので、消臭や除菌効果が違うのと同じく、香りも違うのです。
無垢材をふんだんに使用したお家は、常に木の香りに包まれた生活を送ることになります。
手触りや色味だけでなく、自分たちの好きな香りにもぜひ着目してくださいね。
まとめ
木が生きているかどうかという話は、よく議論されるテーマであり、はっきりとした答えはまだありません。
葉が落とされ、切り倒され、伐された木材が本当に生きているのかどうかというと、死んでいると考えるほうが正しい気もします。
この細胞は木材になった後も材の中でしっかりと形をとどめており、この細胞が湿気を吸収したり吐いたりする姿が「木が呼吸している」と言われる由縁です。
そのため、この細胞を塞いでしまう加工を行った材では、木の持つ効果はほとんど期待できませんが、塞がない限り効果が持続するのは事実です。
そして、樹齢1000年、伐採後1300年が経過した法隆寺の檜材でさえ、いまだに表面を2~3ミリ削るだけで檜独特の香りが漂いだすほど、木が持つ匂い成分の寿命は驚くほど長いとされています。
人では想像さえできないほど長い寿命を持つ木。
匂い成分を含めいつまで木の持つ力が続くのか、きっと誰にも分らないことだと思うからこそ、弊社ではできる限り無垢のまま、木の力を存分に活用した家を建て続けたいなと思う次第です。
家を建てようと思ったとき、もし木の家で無垢材を使用しようと考えたなら、好きかどうかと共に、木の持つ力をどう使いたいか。
望む暮らしができる木は何かという観点も忘れずに、材種を選んでくださいね。
世界最古の木造建築奈良県「法隆寺」